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「聞いて終わり」の研修から、「手が動く」研修へ。福祉の現場で、「できるようになる」とは、どういうことか

2026年10月9日

文:Mats|NEXT WELTECH 公認心理師・社会福祉士・精神保健福祉士・特別支援学校教諭一種免許

鞄の中に「資料」ではなく、「明日使うもの」が入っている研修

少しだけ、想像してみてください。

放課後等デイサービスで働くBさんが、研修を終えて、帰りの電車に揺られています。鞄の中には、分厚い資料……ではなくて、さっき自分の手でつくったばかりの、一枚の手順カードが入っています。

明日、あの利用者さんに、これを見せてみよう。うまくいかなかったら、どこを直そうか。

Bさんの頭の中は、もう「明日」のことでいっぱいです。

研修が終わったあとに、すぐ使えるものが、手の中に残っている。私は、それが「できるようになる」ということの、いちばんわかりやすい姿だと思っています。

こんな悩み、ありませんか?

障がい福祉の事業所を運営されている管理者・サービス管理責任者・経営者・研修担当者の方から、よく伺うお話があります。

  • 研修の感想は「勉強になりました」。でも、翌週の支援を見ると、前と変わっていないように見える。
  • 研修費も、職員さんの時間も使っている。その分が、現場の力として残っているのか、確信が持てない。
  • ABAやTEACCHという言葉は、職員さんも聞いたことがある。でも、「うちの利用者さんの、この場面で」どう使うのかが、つながっていない。
  • AIを使えば楽になると聞くけれど、現場の職員さんが、本当に使いこなせるのか不安。

どれも、現場と研修を、大切に思っているからこそ出てくる悩みです。ひとつでも心あたりがあれば、この先を読んでみてください。

「見て学ぶ」も大切。でも、それだけだと、手が動かない

最初に、お伝えしたいことがあります。私は、「見て学ぶ」研修を、悪く言いたいわけではありません。

話を聞いて、全体の地図を知る。これは、とても大切です。知らないことは、やってみようとも思えませんから。

ただ、もうひとつ、本当のことがあります。料理番組を何本見ても、台所に立たなければ、おいしい一皿は出てこないということです。

どちらも本当だから、組み合わせたい。そのうえで、「見て学ぶ」と「できるようになる」のちがいを、私は三つで考えています。

  1. 手を動かす。 聞くだけでなく、実際に、つくる・書く・試す。
  2. 自分の現場の題材でやる。 教科書の中の誰かではなく、あなたの事業所の、あの利用者さんの、あの場面で。
  3. やってみて、直す。 一回でうまくいかなくていい。うまくいかなかった理由をその場で話して、直す。

この三つがそろうと、研修で学んだことが、「知っていること」から「使えること」に、少しずつ変わっていきます。

片方の机で動画を眺める職員と、もう片方の机でカードとペンを動かす職員、のぞき込むマスコットのイメージ

では、研修の中で、実際に何をつくるのか

ここからは、私の研修の中身を、少しだけのぞいていただきます。どれも、「聞いて終わり」にしないために、手を動かす時間を、まんなかに置いています。

1. 行動の「理由」を、仮説にする(ABA)

「どうして、この利用者さんは、この場面で大きな声を出すのだろう」。現場では、そんな問いが、毎日のように生まれます。

ABA(応用行動分析)は、行動の「理由」を、あてずっぽうではなく、確かな仮説として考えて、それが合っていたかを、データで確かめていく考え方です。

研修では、実際にあった場面を題材に、「その前に何があったか(きっかけ)」「何をしたか(行動)」「そのあと何が起きたか(結果)」の三つに分けて、整理してみます。それから、「こうかもしれない」という仮説を立てて、関わり方をひとつ変えて、試して、数えて、確かめる。ここまでを、研修の中で一緒に体験します。

「勘と経験」が、「言葉にできる根拠」に変わる。すると、ほかの職員さんにも、ご家族にも、「なぜそうするのか」を伝えられるようになります。

2. 見てわかる環境を、手でつくる(TEACCH)

TEACCH(ティーチ)の「構造化」は、場所・時間・活動・作業・コミュニケーションを、見てわかる形に整える考え方です。

「次に何をするのか」「どこでするのか」「いつ終わるのか」が見てわかると、利用者さんは安心して動けます。これは、私たち大人も、同じですよね。

研修では、ご自身の事業所の利用者さんを思い浮かべながら、スケジュールや手順カード、絵カードなどを、自分の手でつくります。そして、つくって終わりにはしません。「この利用者さんには、字より写真のほうがいいかも」「この手順は、ひとつ多すぎるかも」と、仲間と見せ合って、直します。

職員が机を囲んで絵カードや手順カードを並べ、付箋で直し合い、マスコットが見上げているイメージ

3. AIを、「手伝ってくれる道具」にする

「AIは難しそう」と感じる方も、多いと思います。大丈夫です。声で入力したり、基本的な文字入力とクリックができれば、使えるようになります。

研修では、AIの力を借りて、視覚支援の素材づくりや、書類の下書きを、自分でやってみます。ただし、AIが出したものを、そのまま使うことはしません。利用者さんをいちばん知っているのは、現場の職員さんだからです。「ここは、うちの利用者さんには合わない」と、人の目で確かめて、直す。AIは「下書き係」、決めるのは人です。

「できるようになる」ために、進め方で大切にしていること

同じ内容でも、進め方がちがうと、身につき方は、まるで変わります。

私は、大学院でファシリテーションを体系的に学び、教職修士(専門職)として、「教える人を育てること」を専門にしています。だから、進め方にも、こだわりがあります。

  • 説明は、短く。 「少し聞く → やってみる → 振り返る」を、小さく、何度も回します。
  • 全員が、手を動かす。 見ているだけの人を、つくりません。
  • うまくいかないことを、歓迎する。 失敗は、いちばん多くのことを教えてくれます。
  • 話す時間を、たっぷりとる。 コーヒーを片手に、対話の中で考えを深めます。北欧の「FIKA(フィーカ)」のように。
  • 評価しない。 「正解を言わなきゃ」という構えが、ほどける場をつくります。

画面の向こうでも、これは変わりません。リモートでも、手を動かして身につく進め方ができます。

職員が円になってコーヒーを片手に話し合い、ノートパソコンの画面で遠くの仲間ともつながっているイメージ

体験した人の声

研修のあとにいただいた感想のうち、ご本人の同意をいただいたものを、職種と経験年数だけでご紹介します。

視覚的なツールをどう使えばいいか曖昧だった→研修でロープレを行うことで多角的な視点で理解に繋がり実践のイメージがわいた

(管理者・児童発達支援管理責任者・経験10年以上)

必要性の高い視覚支援ツールの作成とAIの活用方法がわからなかった→具体的な表記の仕方や活用方法を学び実践に活かす事ができた。

(指導員・支援員・経験5〜10年)

「わからない」が「やってみよう」に変わる瞬間は、手を動かしたときに、訪れるのかもしれません。

明日からの小さな一歩

いきなり、大きく変えようとしなくて大丈夫です。まずは、次の三つから。

  1. 最近「うまくいった支援」を、ひとつ思い出して、「きっかけ → 行動 → 結果」の三つで書いてみる。 上手に書けなくて大丈夫。書いてみると、「なぜうまくいったのか」が、ぼんやり見えてきます。
  2. 一日の流れの中で、利用者さんが迷いやすい場面をひとつ選んで、「見てわかる」形にしてみる。 付箋に絵を描くだけでも、十分です。
  3. 職員さん同士で、5分だけ、「最近やってみたこと」を話す時間をつくる。 うまくいったことも、いかなかったことも、同じくらい大切な材料です。

よくある質問

Q. ABAやTEACCHを、まったく知らなくても大丈夫ですか?

A. 大丈夫です。専門用語は、そのつど、やさしい言葉で言い直しながら進めます。知識より先に、「やってみる」から始めます。

Q. AIが苦手な職員さんが多いのですが。

A. 声で入力したり、基本的な文字入力とクリックができれば、使えるようになります。AIが初めての方でも、大丈夫です。

Q. リモートでも、本当に身につきますか?

A. 画面越しでも、手を動かす時間を中心にした進め方ができます。私は、大学院でファシリテーションを体系的に学んできました。実際に手を動かして、画面の向こうの人と見せ合い、直していく進め方をしています。

Q. 管理者や経営層も、一緒に参加したほうがいいですか?

A. ぜひ、ご一緒に。現場の悩みを知っている人と、予算や方針を決められる人が、同じ場にいると、学んだことが、現場で「使っていいもの」になります。大きな組織では、施設長・部長・課長など、現場と経営をつなぐ立場の方も、大切な役割を担っています。

Q. 事業所に合わせた内容にしてもらえますか?

A. 内容の組み合わせや順番は、事業所の状況に合わせて、一緒に決めます。まずは、対話FIKAで、現場のいまを聞かせてください。

むすび:研修を、「持ち帰るもの」にする

研修は、聞いて終わりにするものではなくて、持ち帰って使うもの。私は、そう思っています。

手の中に残ったカードが、明日の利用者さんの安心になる。うまくいかなかった一枚が、次の工夫のはじまりになる。その小さな積み重ねが、職員さんの自信になり、チームの力になっていきます。

もし、あなたの事業所で、「研修のあと、使われないまま終わってしまう」という静かな悩みがあるなら、一度、コーヒーでも飲みながら、お話ししませんか。

あわせて読みたい

→ 研修を受けても現場が変わらないのは、なぜだろう(体験型ワークショップという選択)

→ 「あの人がいないと回らない」をなくしたい(一人が抜けても機能する仕組み)

まずは、ご自身の事業所の「いま」を、一緒に見てみませんか。

NEXT WELTECH / 運営:METARBUCKS楽市

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